「東京23区の賃貸物件は空室リスクが低い、家賃が上昇・安定している」「地方物件は利回りが高い」不動産投資の記事には、このような解説が散見されます。本稿では、これらの通説が事実なのかをデータで検証します。比較テーマは投資のときに重要視される、空室リスク、家賃の上昇率、利回りなどです。

空室リスク比較:大阪や福岡などは東京23区よりもむしろ低リスク

不動産投資をするなら東京?地方都市? 空室リスク、家賃、利回りをデータで徹底検証
(画像= Андрей Яланский/stock.adobe.com)

不動産投資には、さまざまなリスクがあります。たとえば、災害、家賃滞納、金利上昇などのリスクです。なかでも警戒すべきは「空室リスク」です。なぜなら、家賃収入が入ってこなければ、そもそも賃貸経営が成り立たないからです。

この空室リスクは、一般的に「(人口の減っている地方に比べて)入居者ニーズの強い東京23区や首都圏の方が低い」といわれますが、これは事実でしょうか? 

結論からお伝えしますと、2つの調査データで確認したところ、たしかに東京23区や首都圏の空室リスクは低い傾向にあります。しかし、地方によっては東京よりも空室リスクの低いエリアもあります。具体的には、大阪府や福岡県などです。詳細は次の通りです。

日管協データ:首都圏の空室リスクは地方都市の平均よりも低い

はじめに確認するのは、公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会の「日管協短観」です。これは賃貸市場のおおまかなトレンドをつかむのに便利なデータとして広く用いられています。

日管協短観の入居率データでは、「東京含む首都圏」と「その他=首都圏以外の地方都市」を比べると、首都圏の入居率が3.1%上回っています。ただし、首都圏と関西圏を比べると、関西が1.5%上回っている点も見逃せません(下表の左側「全体」の部分)。

<入居率推移(%)>

全体 委託管理

(集金管理を含む)

サブリース
2019年
上期
2020年
上期
2019年

上期

2020年 上期 2019年
上期
2020年
上期
首都圏 95.7 95.7 93.9 92.3 97.0 96.5
関西圏 97.4 97.2 96.7 93.7 98.7 97.9
その他 92.0 92.6 91.9 92.4 94.6 95.3
全国 95.4 95.7 93.6 92.6 97.0 96.9

参照:公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「日管協短観2020年4月〜9月」をもとに編集部で作成

https://www.jpm.jp/marketdata/pdf/tankan24.pdfa>

このデータでは関西圏以外の地方都市にフォーカスしていませんが、都市によっては関西圏のように入居率で首都圏を上回るエリアもあると考えられます。

タス社データ:東京23区の空室リスクは大阪府・福岡県を上回る

もう一点、空室リスクに関するデータを確認してみましょう。こちらは、トヨタグループの不動産調査会社タスの「賃貸住宅市場レポート」です。タスでは「空室率TVI」という独自の指標を用いて分析を行っています。

まず、下記のグラフのように、2020年後半の東京23区(マンション系)の空室率TVIは、12ポイント前後で推移しています(青い点線部分)。

株式会社タス「賃貸住宅市場レポート 2021年2月」


分析:株式会社タス「賃貸住宅市場レポート 2021年2月」

これに対して、各地方の空室率TVIは下記のグラフの通りです。もっとも空室リスクが高いのは静岡県で20ポイント前後、東京23区を8ポイント近くも上回っています。この部分だけを見ると、「東京23区よりも地方は空室リスクが高い」といえます。

ただし、東京23区よりも空室リスクが低い地方もあり、たとえば大阪府と福岡県で空室率TVIは約8ポイント、東京23区を4ポイント前後下回ります。空室率が低い地方都市の特徴としては「面積が狭いなどの理由で賃貸物件数が限られる」「人口が増加または安定している」などが考えられます。

株式会社タス「賃貸住宅市場レポート 2021年2月」

分析:株式会社タス「賃貸住宅市場レポート 2021年2月」

家賃比較:東京23区に匹敵する伸び率を示す地方都市もある

不動産投資のメリットとして、「長期的に家賃収入が安定していること」があげられます。加えて、よくある補足説明が「東京23区は人口が安定しているから家賃が上昇傾向」「地方都市は人口減少が著しいから家賃が下落傾向」というものです。これについても関連データを確認したいと思います。

参考にするデータは、三井住友トラスト基礎研究所らが作成した「マンション賃料インデックス公表資料 2020年第3四半期」です。約10年スパン(2009年〜2020年)で東京23区と地方都市を比較すると、両者ともに家賃指数が上昇傾向です。

ただし、東京23区と地方都市の家賃指数の上昇率には差があります。まず、東京23区の場合、2009年の家賃指数を100としたときの2020年後半の家賃指数は約115です。

一方、地方都市の家賃指数の伸び率はエリアによります。家賃指数が東京に匹敵するレベル(110以上)に伸びているのは、大阪市、仙台市、札幌市、京都府、福岡県です。また、名古屋市のように家賃指数がここ約10年横ばいのエリアもあります。

利回り比較:地方都市の利回りは東京23区よりも1%前後高い

新規の賃貸物件を購入するにあたって「利回りを重視する」という投資家も多いでしょう。賃貸物件の利回りは、「東京都心は低利回り」「地方都市は高利回り」の傾向があるといわれます。一般財団法人 日本不動産研究所「不動産投資家調査(2020年4月現在)」で確認すると、これは事実のようです。実際に、両者ではどれくらい利回りの差があるかを見てみましょう。

前提として、同じエリアのほぼ同じ建物でも、条件が変われば利回りは変わります。たとえば、築年数ひとつとっても、新築・築浅であれば低利回りの傾向ですし、築古であれば高利回りの傾向があります。今回、用いる調査データでは、築浅(築5年未満)のマンションの利回りを参考にします。

東京23区のワンルームマンション(最寄り駅から徒歩10分以内)の期待利回りは、目黒区や世田谷区などの城南地区が4.2%、墨田区や江東区などの城南地区が4.5%です。これに対して、地方(政令都市の一部)の賃料はほとんどが5%台(大阪のみ4%台)で東京23区よりも1%程度高めです。

ちなみに、利回りが「東京23区<地方都市」なのは、ファミリー向けのマンションでも変わりません。このような結果から、「利回り最優先」で新規物件を購入する投資家は地方のマンションのほうが向いているといえます。

補足すると、このデータで使われている「期待利回り」とは、物件を購入する時点(あるいは購入前)の予想利回りのことです。これに対して、実際に運用して得られた利回りを「実質利回り」といいます。

東京23区と地方都市、それぞれの傾向を整理

ここでは、東京と地方都市の賃貸物件(主にマンション)を比較し、「投資するならどちらが優位か」をいくつかのテーマで見てきました。その内容を振り返ってみましょう。

空室リスク比較

東京の空室リスクは全国平均並みです。地方によっては大阪や福岡など、東京よりも空室リスクが低いエリアもあります。

家賃比較

東京の家賃指数はここ約10年間で15ポイント上昇しています。地方都市はエリアで明暗がわかれます。大阪市、仙台市、京都府、福岡県などは東京23区に匹敵する伸びを示します。

利回り比較

明らかに地方都市が優位です。築浅のマンションで比べると、政令指定都市(の一部)がおおむね1%前後上回っています。

このように、いくつかのテーマで比較すると、東京23区と地方都市それぞれに傾向があります。たとえば、空室リスク回避で選ぶなら東京・大阪・福岡、利回りで選ぶなら各政令指定都市となるでしょうか。

また一例では、東京23区といくつかの政令指定都市に賃貸物件を所有するのもよいかもしれません。エリア分散させることで、災害リスク(主に地震)を緩和することができます。